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    房一は白シャツを着た小柄な大工と並んで立ちながら、玄関を眺めて云つた。

    「ほう、ほんに!みんなある」

    房一は近い往診の帰りに河の石畳みの土手をつたつて歩いていると、広い河原を前にし土手沿ひの小高い畑地の端に立つて、特長のあるごつごつした頭骨を露あらはにし、両手を帯の前にはさんだまゝ、殆ど反そり身に立つたまゝあたりを眺めている男を見た。

    庄谷はほんのしるしだけにちよつと頭を動かしたが、やつと相手が誰だか思ひ出したらしく、その細い眼が急に徴笑した。

    練吉は時々、「うむ、うむ」と呟き、房一の方をふりかへつては「ね?」と、同意を求めるやうに云つていた。

    来客の間にほつと寛くつろいだ空気が流れ、直造が袴をさばいて立ち上らうとした時だつた。

    彼は先だつて房一から全快祝ひに贈られたセルの上下を、仕立下したばかりのものを着こんでいた。夏からふた月あまり寝こんだとは云へ、日焼けの浸みこんだ黒い皮膚の色は容易にとれないと見えて、今もそれが真新しいセルの、明い地色と際立つた対照をなしていた。

    そして、こんなにはつきりした明るさの中で、もう十分に伸びつくした草地だの山地の樹木は、やたらにもくもくし、ぢつと息をつめているやうであつた。それは全体に黒つぽい様子をしていた。そのいくらか濁つた、一杯に成長し切つたことを示す黒味の中には、何かしらすぐ傍までやつて来ている九月の爽やかさを感じさせるものがあつた。

    「誰?相沢の知吉さんかね」

    「さうですが、それはさうにちがひないが――」

    直造は、然し、突嗟とつさのうちに考へをまとめることができなかつた。彼はあの慇懃な荘重さをとりもどしていた。が、何となく悄しをれた所のある物腰で、房一の挨拶を受けたのだつた。

    彼は自信を失つた。それにこの苦痛と動揺は明らさまに説明しにくい、説明したところで判つてもらへない種類のことだつた。房一はそれを盛子の妊娠の揚合にも経験した。

    「やあ。――こちらへ」

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